昭和長屋のリノベコミュニティを舞台に、住人たちが講師となる体験型内省ワークショップ「JIBUN-TRIP」を設計・実践。

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「コミュニティーは形成するものではなく、自立した個性の発露によって醸成されるもの」という考えのもと生まれた昭和長屋のリノベコミュニティ「大森ロッヂ」。グラグリッドはその考えを形にすべく、大森ロッヂ全体を活用するワークショップを住人たちと共に開催。住人、参加者、そして私たちグラグリッドがそれぞれに価値を見出すプロジェクトが実現しました。

課題

・昭和長屋の趣を残してリノベーションした大森ロッヂ。その空間の特性を活かした施策を試みたいと考えていた。

・大森ロッヂには、大森ロッヂ内で小商いを営みながら暮らす住人や、クリエイターが入居しており、これらの住人たちが一緒に何かできないかという話が以前から持ち上がっていた。

共創と取り組み

・小商いを営むそれぞれのオーナーたちがガイドとなる「アート体験」と、グラグリッドが手がける「内省ワークショップ」を組み合わせた総合体験を設計・実践。
・外部から一般参加者を募り、大森ロッヂ全体を活用する「JIBUN-TRIP」という体験型内省ワークショップを開催した。

価値化したこと

・大森ロッヂの地域特性を活かして、地元密着型の体験型ワークショップを実現できた。

課題&実現したいこと

「人がゆるやかにつながり、暮らしを愉しむ場」として大森ロッヂをどのように活用すべきか?

グラグリッドが拠点を構える笑門スタヂオは、京急本線の大森町駅近くの『大森ロッヂ』と呼ばれるコミュニティの中にあります。

大森ロッヂとは
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全8棟の昭和の木造住宅をリノベーションして作り上げた街角再生プロジェクト。互いに触れ合い、共に愉しむ住まいづくりを目指しています。路地や露地、ロッジなどから連想して大森ロッヂと命名。2015年には大森ロッヂ初の新築棟「運ぶ家」、2022年春にはグラグリッドが入居した「笑門の家」を建築し、変化を遂げています。 
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引用:大森ロッヂ – Omori lodge

そんな大森ロッヂでは、グラグリッド以外にも小商いを営むオーナーやクリエイティブ業務に携わっているクリエイターが暮らしています。そして、今回、次の方たちとのコラボレーションが実現しました。

・「nal」:革が得意な小物ブランド
・「fuchidori」:タイル小物ブランドでもありワークショップもできるタイル工房
・「aof-kaban」:カフェも営むカバンブランド
・「旅する茶屋」:日本茶ソムリエのいるお茶屋カフェ & 着付けサービス
・「短尺屋」:映像制作

こうした多様な個性を持つ住民たちとグラグリッドが親交を深めていくに従って、皆で何かできないかという話も持ち上がっていたのです。一方でグラグリッドは、社会実験やソーシャルデザインを実践する社会づくりを事業の一環としています。

そこでグラグリッドは、「地域における価値創出」、「立場の異なる人たちや社会をつなぐバウンダリーオブジェクト」の2つを形にできるプロトタイプ・プロジェクトというとらえ方で、大森ロッヂを舞台に住人たちとともにワークショップを企画しました。

▶グラグリッドが大森ロッヂへ移転した際のnote記事
社会実験の拠点として活動スタート! なぜ笑門スタヂオへ移転したの? 移転してみてどんな感じ?――経緯や見えてきたこと聞きました|グラグリッド編集部

共創と取り組み

大森ロッヂ全体を体験の場とした内省ワークショップを設計・実践

グラグリッドと大森ロッヂの皆さんとで、「JIBUN-TRIP(ジブントリップ)」と名付けた体験型内省ワークショップを設計・実践しました。

・コンセプトは「気づかなかった自分」を発見するワークショップ。
「Step1:自分の深堀」→「Step2:アート体験」→「Step3:自分の発見」の3つのステップでワークショップ全体を構成。
・「アート体験」では、小商いを営んでいるオーナーたちがそれぞれにガイドとなり、参加者が自身を表現するアート体験を開催。
・「自分の深堀」、「自分の発見」では、グラグリッドがファシリテーターとなり、参加者自身の内省を深めるワークショップを担当。

▼JIBUN-TRIPの3つのステップ

「Step1:自分の深堀」——自身の原点を探索する

最初に自身の考え方の「原点」を探す内省ワークを参加者たちに体験してもらいました。「これまでに生きてきたなかで、大切にしてきたものは何だったのか?」を書き出しながら、自身に対する理解を深めていくパートです。

このパートに取り組むにあたっては、3日前に自身の生き方に影響を与えた体験エピソードを探してもらっていました。自身の過去の経験を重視し、自身の思考や価値観を洞察するのを目的としています。

ここでは私たちの考えたフォーマットを活用しながら「大切にしてきたものの書き出し」→「参加者同士の対話」→「発見の言語化」→「発見の共有」といったアプローチで自身の深堀を進めていきました。

▼フォーマットを活用し過去の経験から自身の思考や価値観を洞察する参加者の様子

▼発見を共有する参加者の様子

「Step2:アート体験」——1で見えてきた自分をアートを通じて表現する

大森ロッヂ内の各所にアート体験スペースを用意しました。アート体験は全部で4つ。

・自分のイマジネーションを表現する「タイルの絵付け体験」
・いつもと違う自分の姿と出会う「着付け体験」
・自分の手でつくる楽しさを味わう「手縫いのレザークラフト体験」
・自分のバランス感覚を研ぎ澄ます「トートバッグのテキスタイルデザイン体験」

アート体験では言葉の表現そのものにも注意を払いました。このワークショップは「JIBUN-TRIP=自身を見つける旅」をコンセプトに全体を設計しているので、例えば「着付け体験」には、「いつもと違う自分の姿と出会う」といった表現も意識的に加えています。
なお参加者が大森ロッヂ内を散策して昭和長屋の風情を楽しむことができるように、大森ロッヂ内に分散してアート体験スペースを設けました。

▼大森ロッヂ内を散策しながらアート体験へ向かう参加者の様子

▼いつもと違う自分の姿と出会う「着付け体験」の様子

▼自分の手でつくる楽しさを味わう「手縫いのレザークラフト体験」の様子

▼自分のバランス感覚を研ぎ澄ます「トートバッグのテキスタイルデザイン体験」の様子

▼自分のイマジネーションを表現する「タイルの絵付け体験」の様子

「Step3:自分の発見」——体験を共有し、気づきを整理。自身の発見を表出化する

このパートは「グループになって体験を共有する」→「ポストイットに書き出す」→「全員でダイアログ」→「パスポートに気づきを書き出す」というステップで進めていきました。

「Step1:自分の深堀」を経て、「Step2:アート体験」に取り組んだ自身の経験をお互いに語り合い、自身の考えを整理したり、客観視したりすることで、自分の発見につなげていきます。

▼「Step2:アート体験」で作った作品写真を見ながら語り合う様子

▼グループに別れ作品写真やパスポートを見せ合いながら語り合う様子

▼語り合う中で整理された自身の考えをもとに「自分へのメッセージ」を書き出す様子

「JIBUN-TRIP」を記憶に残すパスポートをもとに実施

「JIBUN-TRIP=自身を見つける旅」をコンセプトとしている今回のワークショップでは、旅には欠かせないパスポートをモチーフとしたワークシートを作成しました。
ワークショップでのすべての体験をパスポートに書き込んだり、付箋や作品写真を貼り付けたりできるようになっており、自身の内省のプロセスを後々でも振り返ることができます。

▼参加者一人一人に配られた、自分だけのパスポート

▼パスポートに過去の経験、自身の考えを記録している様子

価値化したこと

大森ロッヂ/住人、参加者、グラグリッドのそれぞれに価値をもたらした三方よしのプロジェクトに。

今回のプロジェクトを通じて、大森ロッヂ/住人、参加者、グラグリッドそれぞれに価値を見出した三方よしな体験を生み出すことができました。

・グラグリッドにとっては、「社会づくり(社会実験・ソーシャルデザイン)」の一環として、自分たちの手による施策の設計・ファシリテーションに取り組み、地域における価値創出やバウンダリーオブジェクトのモデルケースとなるような特色のあるプロジェクトにすることができた。
・大森ロッヂや住人にとっては、これまでに取り組んでみたいと思っていた、大森ロッヂの場を活かす施策が実現できた。
・参加者にとっては、自身の内省をアートで表現し、表現したものを形にする体験を通じて、自身に対する理解を深めることができた。

クライアントの声

●参加者からの声

・「真新しい自分」というよりは、仕事をする中で、社会に埋もれてしまった自分の本来の姿をまた見ることができた感じがしました。
・新しい自分というより、自分はどういうことが好きで、どういうことで充実感を得られるのかを再認識できました。
・日常ではなかなかできない自分に向き合う時間を、一人ではなく皆様と持てて、とても幸せでした。
・場の雰囲気がとてもよく、コンテンツの質がすばらしく高い&アットホーム感があって、とにかく満足でした。
・「自分を見つめ直す」というテーマは扱い方によっては、重くなってしまいますが、カジュアルな仕立てでステキ!と思いました。

●アーティストの声

・試してみたかったワークショップが実験できて、これからやってみたいことが具体的になった
・この大森ロッヂでの連携に可能性を感じた
・みんなで作り出す過程がとても楽しく、かけがえのないもののように感じた

グラグリッドメンバーのコメント

この企画は、とある夜、住人たちとワインを飲んでいるときに立ち上がりました。
「こんなに面白い人たちが集まっているから、何かやってみよう!」
「グラグリッドって、こういうプロデュースをするのが仕事でしょ?」と、
住人たちの想いに背中を押されるかたちで始まりました。
私自身もやってみたかったということもありますが、こんな風に、互いの良さを活かし合える体験をつくることができたのは、「それぞれでできることをやってみよう!」と委ね合える、このコミュニティのあり方があってのことだったように思います。

サービスデザインでは、このような地域活性化の取り組みを「再現性あるカタチで仕組み化する」ということが求められます。
しかし、仕組み化だけを考えていては、そこにある独自性のある宝に気付けないこともあるかもしれません。
そんなジレンマに対し、一つの実験としてわたしたちが取り組んだのがこのプロジェクトです。
「その人がいたからできた面白いこと」を見つけ出しカタチにする。その豊かさを、この実験的なプロジェクトをとおして、実感することができたことが、大きな成果だったと感じています。

(三澤)