オンラインで参加できる未来洞察ワークショップツール「フォーサイトスプリント」の開発

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世の中の不確実性が増している中で、小さな兆しから未来のシナリオを描き出す手法「未来洞察」が注目されています。未来洞察のワークショップを、オンライン環境でもあらゆる人が楽しみながら参加できるように、独自のツール「フォーサイトスプリント」をオンラインホワイトボードmiro上に開発しました。

課題

一橋大学では、不確実な未来を捉えていくための方法として「未来洞察」という手法を、世の中に広くひろめていこうと考えていました。
しかし、「未来洞察」は、専門的な知識と柔軟な思考力が求められるため、高度なファシリテーション技術を必要とします。さらに、オンライン環境でワークショップを実施しなければいけないという制約もあり、どのようなツールをつくるべきか見えていない状況でした。

共創と取り組み

未来洞察の世界的動向を把握した上で、ワークショップの要点を整理することからはじめ、オンライン環境ならではの効果的なワークショップ環境を検討しました。そして、誰もがワクワク楽しめる環境として、オンラインホワイトボード「miro」上に、まるでゲームのような世界観を構築。ワークシートとデータ活用が一体化となったツールを開発しました。

価値化したこと

専門家の脳内にあった知識を可視化し、体系化するとともに、多くの人が理解しやすいデザインに変換することで、理解を促進しました。
複雑で高次元な概念化プロセスを、空や海、はしごや看板といったメタファをもちいて表現することで、思考の方向性を捉えやすくしました。
参加者が主体的に認知、選択、操作等を行い、ファシリテーターに依存せずに実施できる環境を作り出しました。

課題&実現したいこと

“不確実な未来を洞察する”ワークショップツールをつくりたい。
2020年の秋、一橋大学 七丈直弘教授から未来洞察オンラインワークショップのツール開発についてのご相談をいただきました。

世の中の不確実性は増大し、今は、VUCAと呼ばれる「未来が見通しづらい」時代になっています。しかし、「未来はわからないから考えても仕方がない」と思考停止してしまうと、変化に対応することもできず、事業や組織の発展が停滞してしまいます。

大きな社会構造の変化の先に、いったいどのような日本社会が形成されるのか、未来に向けて社会がどのように変化しうるのかを様々な仮定や幅広い視点から洞察し、多様なシナリオを立案することで、十分な準備・心構えを持つために、未来洞察「フォーサイト」というアプローチが注目されています。

そこで、未来洞察の知見が無い方、遠く離れた方、どんな人でも一緒に体験することができるように、オンラインホワイトボードmiroを活用した未来洞察オンラインワークショップツール「フォーサイトスプリント」を開発することとなりました。

共創と取り組み

誰もが参加しやすいオンラインワークショップを目指して、3ステップで進めました。
Step1:知見と課題の整理
Step2:ラピッドプロトタイプで方向性を模索、省察の繰り返し、ツールを創出
Step3:未来洞察ワークショップ実施手法、留意点の明確化

Step1:知見と課題の整理

1)オンラインWSの特徴整理
「オンライン化でできること」「オンライン化で失われる可能性があること」を様々なシチュエーション/ツールを前頭して、経験に基づいてあぶり出しました。表出した事象を、その内容に応じて分類し、それぞれ4つの観点と、13個の「オンラインWSの特質」を明確にしました。

2)未来洞察ワークショップの体験とファシリテーションポイントの把握
ツールの開発を始めるにあたり、未来洞察ワークショップまたは、重点的に作り込みたいメソッドの体験を行い、知識のインプットを行いました。これまで数々の未来洞察ワークショップをファシリテーションをされている七丈先生から、さまざまな起こりうるケースと思考プロセスについて教えていただきました。

また、世界の事例としてフォーサイトを実施しているコンサルティング会社、リサーチ会社などの実施内容及び、提供ツールを確認し、フォーサイトが求められる環境、必要なプロセス、ポイントを理解し、複雑なトレンドをわかりやすく、楽しみながら提供していく必要があることを改めて理解しました。

Step2:ラピッドプロトタイプで方向性を模索、省察の繰り返し、ツールを創出

1)ワークショップフィールドの検討
オンラインで未来洞察ワークショップを行う上で最適なものを幅広く検証するために、試行し、書き出すためのプラットフォームについて4つのバリエーションを展開し、検討しました。

2)実施ステップ/実施内容の検討
本プロジェクトで検討中の手法と、これまで七丈さんが実施された未来洞察プログラムを照合し、その差異を確認しながら、フォーカスすべき要素を特定しました。

全体像を考えながら、効果的に実施すべき構造を検討し、3ステップから5ステップに変更、シナリオの作成方法を分類し、分岐タイプとフレームタイプそれぞれの特性を確認しました。

設定したテーマに対して、参加者が抽象度を上げ、どこまで深ぼるのかが鍵となりました。

そこで、予測できない未来を捉えるためのステップや、ドライビングフォース(将来に大きな変化をもたらす可能性を持つ外部環境要因)を探索する「フューチャーホイール」を工夫しました。

CLA(原因層分析)型で深堀りする方法を検討、検証し、ドライバー抽出のステップの考え方を明確化、
重要かつ不確実な未来に対して、世界像を想像していくための「軸」の作り方について2種類の方法を把握し、実施内容が明確になりました。

3)効果的なデータベースの作成、ワークシート、カード等の検討
ワークショップフィールドに、これまで検討した実施内容を整理し改定した上で、メガトレンドカード(世界の経済的トレンド動向)を掛け合わせながら、未来像を矯正発想するための「未来創造シート」を考案しました。

また、軸の特定方法において、より効果的にシナリオ創出に結びつく方法の模索、シナリオ作成方法で、ストーリーテリングのパターンが活用できるのか検証し、ワークシートやカードで必要な要件が見えてきました。

4)ファシリテーションでの指示検討
新しい考え方を誘発するための、ファシリテーションのポイントを特定し、ステップごとのファシリテーションのポイントを明確にしました。

世界観シートでより探索的に未来に影響を及ぼすことを発散させる方法を検討し、メタファを活用した世界観の絵として表現する方向性で進めることとなりました。

未来シナリオを作成するステップで、チートシートのような穴埋め式の問いを検討し、未来シナリオを作成するためのシナリオの構造を再現することとなりました。

5)楽しくできる体験、キャラクターなどのデザイン
これまでの知見を活かし、プラットフォーム全体をゲーミフィケーションがありつつも、ワーク全体の流れがわかりやすいように、横スライド式のデザインに改善しました。

また、ワークシートにさまざまなメタファを用いて、それぞれのワークに取り組みやすい工夫を行いました。

ワークショップにおける思考プロセスにおいて、ポイントを明確にし、難しいことを楽しく誘う、本ワークショップの象徴的存在となるようにFの文字を用いたキャラクター「フォーサイトくん」をデザインしました。

Step3:ワークショップ実施手法、留意点の明確化

オンラインホワイトボードでのメソッドデータ、各種利用ツール(ワークシート、カード)等をパッケージとしてまとめ、データを読み込めばいつでもワークショップのできる状態を作りました。

価値化したこと

ワークショップツールを制作する前は、フォーサイトは専門的な知識が必要で、難しく、始めて取り組む人にはハードルの高いものでした。

しかし、参加者5名程度のグループが、1つのオンラインホワイトボードにアクセスし、同時編集を行いながらオンライン上で行う、フォーサイトのワークショップツールを開発し、実際に取り組んだ方から、WSのフィールドのわかりやすさや、楽しさを評価されました。

グラグリッドメンバーのコメント

新型コロナウイルスの流行により、生活が急激に変化し、まさに「未来が見通しづらい」世界になってきました。
そんな中で、不確実な未来を誰もが一緒になって考える未来洞察のツール開発は、まさに今の時代に求められているものだと感じました。

開発当時、オンラインワークショップはまだ世の中に事例が少なかったため、これまで培ってきた対面でのワークショップノウハウを活かしながら進めてきましたが、七丈先生と共にトライアンドエラーで様々なメタファーを取り入れた画期的なワークショップフィールドができたと感じています。
このツールをつくるにあたり、常に遊び心をわすれずに、一緒に探索を続けていただいた七丈先生に本当に感謝しています。

多くの方がこのツールを活用し、様々な分野の方と一緒にワイワイ盛り上がりながら、未来について考える場ができたら嬉しいです!(川村)