全国の観光開発プロデューサーに、成功事例の暗黙知を水平展開する「地域デザイニング」
多くの地域でその開発が行われる中、成功事例として注目されている商品は、来訪者の体験と、サービスを提供する地元の運営設計が絶妙にデザインされています。そのデザインをするためのノウハウを、成功事例から紐解き、開発プロセス「地域デザイニング」として可視化、体系化しました。
課題
株式会社JTB(以下、JTB)では、着地型の観光商品・サービスを開発するプロデューサーのノウハウを組織的に展開してナレッジの循環を図るには?
共創と取り組み
成功事例を手がけたプロデューサーや地域のステークホルダーにプロジェクト実施当時の回顧インタビューを実施。そこで得られた情報を、時系列や関係性などの観点からの分析を担当者の皆さまと行いました。
価値化したこと
プロデューサーはじめ地域のステークホルダーからのインタビューから、プロジェクトの軌跡を可視化。プロジェクトジャーニーマップを作成し、いつ、誰の、どのような働きかけや行動で、着地型の観光商品・サービスが生まれたかを見える化し、体系化しました。
課題&実現したいこと
日本の観光振興の取り組みにおいて、地域資源を活用した着地型の観光商品・サービス開発が重視されるようになってきました。従来の物見遊山型の観光から個人の体験を重視した観光へ、それをどのように開発していけばよいのか、一筋縄ではいかない活動であることは想像に難くありません。
そのような困難なテーマに対して、着地型の商品・サービス開発には、それを開発するプロデューサーの存在が重要となります。プロデューサーが地域のキーマンと関係性を築いて、地域資源を磨き上げ、開発を進めていくのです。
一方で、その開発はプロデューサーの属人性に依存することが多く、他地域でも組織的に商品・サービス開発を水平展開することが難しいという課題がありました。一人でも多くのプロデューサーに、ノウハウを移植して、各地のプロジェクトを成功に導いていきたい、そんな思いがありました。
共創と取り組み
プロジェクトジャーニーマップによる振り返り
はじめに、先行して結果を出していた旅行商品開発をモデルケースとして分析。担当した観光開発プロデューサー、地域側の関係者、キーマンにデプスインタビューを実施しました。インタビューではプロジェクトのはじまりから現在までの流れを時間軸で振り返りやすいように、プロジェクトジャーニーマップなるシートを用意し、そのシートに書き込みを行いました。
プロジェクトジャーニーマップには、いつ、誰が、何をしたかインタビューを実施しながら記述し、さらにその時の背景情報やポイントとなったモノなども書き込みながら、どんな意図でそれぞれが活動していたのか可視化しました。
ステークホルダーマップによる関係者間の見えない力関係を把握
インタビューではプロジェクト関係者(ステークホルダー)の関係性を把握するために、ステークホルダーマップも一緒に作りながら、各関係者間の立場、思惑、ビジネス上のつながり、地域内組織文化などを明らかにしていきました。
マップ作りにおいては、積み木を人に見立てて、それを動かしながら、その時のエピソードを振り返りました。積み木を人に見立てることによって、数年前の出来事でも思い出すきっかけができたようで、かなり深いエピソードを聞くことができました。
着地型旅行商品ならではのポイント
インタビューを重ねていく中でポイントとなったのが、「観光開発プロデューサーだけでは、地域主導の着地型商品開発を作ることができない」ということでした。受入れ側としての地域の合意形成、それを主導する地域側リーダーの力量も問われてきます。力量というのは、地域の事業者や関係者を巻き込む力のことです。その上で、観光開発プロデューサーと地域側リーダーの信頼関係がなければ、なかなかコトは進まないという点も明らかになってきました。
商品開発の山場は「コンセプト」づくり
「なぜその地域に訪問しなければならないのか?」という問いは、着地型旅行商品に対する究極の問いです。それは、他の地域でも体験できるようなことを提供しても、その地域が選ばれる可能性は低くなるからです。
そのため、地域との協働による商品開発においてはワークショップなどを通じて、いかに地域らしさを発揮できる「コンセプト」を合意形成できるかがポイントになります。ここが、観光開発プロデューサー最大の腕の見せ所にもなります。そのために、観光開発プロデューサー自身がその地域文化を理解するプロセスも必要でした。
着地型旅行商品の開発は、サービスデザインのアプローチそのもの
旅行商品のアイデアとしてどのような旅の過ごし方を提供するかは、地域のコンセプトに合致した旅の過ごし方を来訪者の視点でデザインしていくことになります。同時に、それを実現するための運用も考えなければなりません。
これは、事業の全てをサービスととらえ、そのサービスを再定義したことで得られる顧客体験と、それを支える運営側の動きを合わせて全体設計するサービスデザインの考え方そのものです。
サービスデザインではフロントステージとバックステージというとらえ方があります。今回は、フロントステージ設計として来訪者の体験ストーリー作り、バックステージ設計として地域側の運営ルール作りとして、それぞれの設計を進めていける活動を開発プロセスの全体構成としました。
特に、地域活動ならではの特徴として、地域活動に取り組む人々のチームワークが重要だということが見えてきました。まずは、地域の仲間を信頼しあえるチームビルディングをプロジェクトの最初に行うことを組み込みました。
価値化したこと
地域デザイニングプロセスの構築
調査から得られた情報を分析、整理、体系化して、「地域デザイニングプロセス」としてまとめました。
プロセスは、以下の3つの構造から構成されています。
・コンセプト設計
・商品開発
・商品販売
各パートではワークショップやフィールドワークを実施しながら、具体化していく活動内容を記載しています。これらの知識は、観光開発プロデューサーがプロジェクトを進めていく上でのリファレンスとして活用されます。この地域デザイニングプロセスをベースに、地域や状況に合わせて内容を調整しながらプロジェクトを進めていくことで組織的な活動の土台作りができました。
クライアントの声
全国各地でさまざまな観光振興による地域活性化への取り組みが進んでおります。時代とともに旅行のスタイルも変化しており、従来の観光スポットだけをPRしても観光客を増加させていくことは難しくなっています。ニューツーリズムの推進という名のもとで地域資源を掘り起こし、着地型観光商品が開発する動きが活発に行われていますが、現実には集客に苦労し、継続的な取り組みにならないことに悩みを持つ地域が数多くあります。
その一方で地域の本当の強みを見極め、旅行者を楽しませる新しい体験価値を創り出し、観光客増加に成功した地域があります。これまでは成功事例として表面的な事例紹介は数多くありましたが、本当にお客様が求める着地型商品を開発していくプロセスは明確にされておりませんでした。
「地域デザイニング」という考え方は、JTBがこれまで取り組んできた観光地域づくりや旅行商品開発の経験とグラグリッド様の持つサービスデザインのノウハウを融合させ、市民協働による地域ブランドづくりにつながる着地型商品の開発プロセスを見える化したものです。
単なる旅行商品開発としてではなく、来訪者に地域を五感で感じてもらうことで、観光客から地域のファン、サポーターになってもらい、さらには地域の強力な推奨者である「アンバサダー」となっていくための地域との接点づくりとして着地型商品をとらえ直すというものです。私たちはこの考え方が地域主導で継続的に旅行者を集客していくための仕組みづくりのための羅針盤となると考えています。
そして地方創生時代における新たな観光振興の考え方として全国各地で取組みが進んでいくことを祈念するとともに、その普及に向けて活動を進めていきたいと思います。改めてこの度はグラグリッド様に多大なるご協力とご支援をいただきましたことを心より御礼申し上げます。
山下真輝氏
(株式会社ジェイティービー グループ本社 国内事業本部 法人事業部 観光戦略チーム 観光立国推進担当マネージャー ※2016年10月時点)
グラグリッドメンバーのコメント
地域をテーマとした取り組みはグラグリッドの特長にもなっており、そのようなテーマで仕組みを作る機会に恵まれたことに株式会社JTB様に感謝申し上げます。地域の取り組みの主役は地域の方。どうすれば、事業者としてパートナーになれるのかそのポイントを明らかにできました。