ビジョンドリブンな研究で社会的インパクトを創出するための新たな研究所を設立。研究所のビジョンや方向性を明確化する

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  • 組織開発

横浜国立大学は、ビジョンドリブンな研究により社会的インパクトを創出することを目的とした総合学術高等研究院を2023年4月1日に設置。
研究院内で新しく研究機関を立ち上げるにあたって、ビジョン策定や研究の⽅向性を明確化するためのプロジェクトが開始されました。
グラグリッドは、このプロジェクトにおいてデザインコンサルティングハブであるdesignMeMEとともに、ワークショップの設計とファシリテーションを担当しました。

課題

・ビジョンドリブン型の組織をつくるために、横浜国立大学の研究者が⽬指すべき社会像を研究者自らの手で描き出したい
・そのためにビジョンや研究の方向性を明確化したい

共創と取り組み

・横浜国立大学ならではの強み(内部環境)と社会的な課題(外部環境)を表出化する
・内部・外部環境を組み合わせて、横浜国立大学が⽴ち向かうべき価値ある社会的テーマを創出する
・組織のあり方、研究領域のアイデアを導き出す

価値化したこと

・横浜国立大学の潜在的な特徴を表出化して、独自の強みを見出すことができた
・多様な背景を持つメンバーが、⾃分ごととして捉え、⾃らの関わり⽅を見出すことができた
・「共有知の循環型組織」という組織構造が導き出された
・研究分野や学問領域に拡がりが⽣まれた

課題&実現したいこと

横浜国立大学(以下 YNU)は、ビジョンドリブンな研究により社会的インパクトを創出することを目的とした総合学術高等研究院(Institute for Multidisciplinary Sciences:以下 IMS)を2023年4月1日に設置しました(プレスリリース)。

IMS内では「リスク共生社会創造センター」、「台風科学技術研究センター」、「豊穣な社会研究センター」、「次世代ヘルステクノロジー研究センター」の4つのセンターに加え、「共創革新ダイナミクス研究ユニット」、「生物圏研究ユニット」、「革新と共創のための人工知能研究ユニット」の3つの研究ユニットを形成。分野横断型の世界水準にある総合学術研究が戦略的に集約され、研究に特化した組織体制を整備しました。

研究センターの1つである豊穣な社会研究センターでは、IMSの始動に際して、活動の指針となるビジョンや研究テーマを明確にするためのプロジェクトが立ち上がりました。

プロジェクト立ち上げの背景には、「多様な専門分野の研究者たちが、⽬指すべき社会像を⾃らの手で描き出し、その実現に向けて学内外の知を結集する」というビジョンドリブン型の組織づくりを実践していく狙いがありました。

共創と取り組み

YNUの知を結集して挑むべき意義を持ったビジョン策定や研究の⽅向性を明確化するために、ビジョンドリブン型のアプローチによる共創型ワークショップを実施しました。

全体としては、「妄想ワークショップ」→「ワークショップ結果の分析」→「構想ワークショップ」→「ワークショップ結果のまとめと提案」という流れで構成されています。

豊穣な社会研究センターにおける活動分野は、防災・減災をテーマにすることが想定されているため、ワークショップでもそのテーマに即した内容で行われました。

「妄想ワークショップ」:YNUが⽴ち向かうべき価値のある社会的テーマを創出する

外部視点(社会像)と内部視点(YNUの特徴)を表出し、YNUが取り組む価値ある社会的テーマを創出するのを目的にしたワークショップを実施しました。<社会的テーマを創出する=妄想をふくらませる>としたことから、「妄想ワークショップ」と名付けられています。

1:外部視点の表出

事前宿題として「もし、⾸都圏エリア全体で考える防災減災に研究機関が無関⼼な状態で⼤規模な災害が発⽣したら、 未来はどのような社会になってしまうだろうか︖」という問いかけに答えてもらい、各参加者の考えを明らかにしました。その上で各自の示した考えを共有・集約し、危機の迫った社会をまとめていきました。

2:内部視点の表出

次に内部視点の表出を目的としたワークを実施しました。ここでは「360度探索」を活用しています。

“360度探索は、自分の無意識の思考を探索する方法です。「自分が大切に感じているもの」を1つ設定し、その特徴をあらゆる角度から30個の言葉で書き出します。
時間制限を設けてできるかぎり多くの言葉ことを書き出すことで、自分でも意識していなかったことまで発掘することができます。自らの潜在的な考え方に気づき、新しい視点を手に入れることができるでしょう。”

引用:360度探索 – デザインのしたじき (shitajiki.net)

「⾃分が所属している研究機関・組織の特徴は?」というテーマで参加者にワークに取り組んでもらった後、それぞれが所属する研究機関・組織の意外だった特徴を共有。
個別の考えをグループの考えとしてまとめ上げていきます。



3:YNUが⽴ち向かう価値のある社会的テーマを創出

1と2で得られた内容をもとに、各参加者に「YNUが⽴ち向かう価値のある社会的テーマ」をワークシートに記入してもらいました。


「ワークショップ結果の分析」

「妄想ワークショップ」で得られた内容を持ち帰り、グラグリッド内で分析しました。社会的テーマでそれぞれの参加者が記載した内容の意味に注目し、構造化を行います。構造化による価値の創出と循環のモデルとして、2つの仮説を導き出しました。

導き出した仮説に対する特徴を把握しやすいようにメタファーとして描き出しました。


「構想ワークショップ」:自分ごととして活動にコミットする

2回目のワークショップでは、分析で得られた仮説A「ビオトープ型」とB「劇場型」に関する考えを深めるためにフィッシュボウルを実施。その後、個人ワークで「YNUならではの理想的な組織のあり方」や「新しい研究分野」のアイデア出しを行っていきました。

グラグリッドはワークショップにおけるファシリテーション、グラレコ、ビジュアルによる構造化などを担当しました。




「ワークショップ結果のまとめと提案」

2回にわたるワークショップの後、まとめとしてレポートを提出。同時にワークショップで明らかになった参加者の想いをもとに5つのテーマを提案しました。これらをテーマとした研究所の立ち上げにもつながっています。

 

ビジョンをもとに「組織的に知恵を醸成する」アプローチ

SECIモデルをベースに全プロセスを位置づけ循環させる構想があった。

価値化したこと

今回のプロジェクトを通じて以下のような価値をもたらすことができました。

・多様な背景を持つメンバーが、 新組織設⽴に向けた検討テーマ(防災減災に関する教育研究)を ⾃分ごととして捉え、⾃らの関わり⽅を見出すことができた
・新組織の理想的なあり⽅として、 「共有知の循環型組織」という組織構造がビジュアルで描き出され腹落ちできた
・防災減災に関する教育研究として捉えるべき研究分野や学問領域に拡がりが⽣まれた
・YNUならではの研究分野の必要性を見出すことができた
・YNUの潜在的な特徴を表出し、 その特徴がYNUの強みになっているのを認識することができた

※なお今回のプロジェクトに関連したXデザイン学校による公開講座が実施されました。
Xデザイン学校公開講座:共創でつくるビジョンドリブンな活動と組織(オンライン)

クライアントの声

横浜国立大学 先端科学高等研究院 兼 総合学術高等研究院 研究戦略企画マネージャー
小清水 実様

「世界水準の知の統合大学」を学長ビジョンとして掲げる横浜国立大学では、多様な知を統合したビジョンドリブン研究をより一層推進する組織として、総合学術高等研究院(IMS)を設立する計画を進めていました。
その中核には「台風」や「リスク共生」をテーマに既にビジョンドリブン研究を実践していた組織が配置されましたが、それ以外の分野でも重要な社会課題の解決や、より良い未来社会のビジョン実現を目指し、新たな組織立ち上げの議論が行われました。
その一つが、防災や減災に貢献する組織の検討でした。私は高等研究院のスタッフとして議論に参加していましたが、多様な専門の研究者から構成された検討メンバーは本学ならではの防災・減災研究の方向性やビジョンを見出す事に苦戦していました。
自分達がなぜ、今、それに挑むのかという根源的な動機や、自分達の強みは何かを見い出せていなかったからだと思います。

design MeME社の小島代表とグラグリッド社の皆様には、私達の現状と課題を深く理解頂いた上で適切なワークショップを提案、運営して頂きました。
研究者と事務スタッフが同じテーブルを囲み、各々が描くありたい未来やその実現に向けた私達の貢献イメージが様々な手法で引き出されていきました。この刺激的な体験を通し、新たな組織の狙いやあり方を検討メンバー全員が自分事で考える事が出来たと思っています。大変お世話になりました。
このような検討で誕生した豊穣な社会研究センターやIMSの今後の活動を見守って頂ければと思います。

 

【プロジェクトパートナー】
design MeME代表
小島 健嗣様

ビジョンドリブン型の組織構築についてご相談をいただいた時、大学の様な細分化された専門家集団の組織に対する取り組みは大変難しく、前例がない挑戦的な試みになると思いました。
未来予測が困難な市場での成長や変革を余儀なくされている企業での試みにおいても、ロジカルにプロセスと実績を根拠で示しながら、自分たちの存在意義と絡めて「自分ごととして本気になる」ための「場」の設計が重要となります。
そこで、組織のビジョン創造事業を開拓しながら独自のノウハウを蓄積しているグラグリッド社と連携すれば、実践プロセスで議論や創造の過程をリアルタイムに可視化するスキルと融合させていくことで可能となると考えました。

結果として、大学の経営層と教育・研究者だけでなく事務局の職員までをフラットに巻き込む場をつくり、その「場」で起きたことを読み解くとともに、組織の姿を提案し、社会に実装する実効性に導くことになりました。
対話を中心としたこの活動の中で、創造する組織のメタファーと組織名称までを可視化し提案したグラグリッド社の深い考察力と構想力、その提案をよしとして受け入れたクライアントの粋など、相互が大きなエネルギーに昇華されました。このソサエタルイノベーションたるムーブメントをスタートできたことは、運命的で幸運な出会いだったったとも言えましょう。

グラグリッドメンバーのコメント

「ビジョンドリブンな組織」になるために。わたしたちが大事にしたのは、現場の人が自分たちらしさを認め合い語り合うことでした。
この語り合いの中で、最初は口を閉ざしていらっしゃった方も、次第に口をひらき、やってみたいことを熱く語ってくださいました。まるで、それぞれの夢見る心に火を灯し、その火が広がっていくようでした。「ビジョンドリブン」とは、強い想いのある人に同調することではなく、個々の心を拓き、ビジョンを見せ合うことで生み出されるパワーで前進する、ということだと確信できた瞬間です。

横浜国立大学のみなさんの挑戦する気持ちがあったからこそ、このようにユニークで共感性の高い成果が生み出せたのだと思います。この活動を推し進めていただいた、小清水さんをはじめ、多くのみなさま本当にありがとうございました!

今回活用した共創型ビジョンデザインは、これまでグラグリッドが試行錯誤してきた知見を結集したものでした。
東日本大震災の直後から始めたフューチャーセッションや、さまざまな場で培ったグラフィックによるモデリングのノウハウ、さらには、小学校の創造的人材育成のために生み出した自己開示メソッドなどです。また、これらを効果的にご提供していくことができたのは、design MeME社小島さんの、ヒアリング力、提案力があったからこそと思います。横浜国立大学の真の課題を捉え、ナレッジマネジメントの基礎理論であるSECIモデルをベースに統合したことで、ビジョンづくりだけでなくその先の事業開発やブランディングの道筋をとらえた活動となりました。

まだまだ活動は始まったばかり。豊穣な社会研究センターやIMSの今後の活動を見守りながら、これからもセッションを盛り上げていければと考えています。

三澤 直加