常識、固定概念、個人の壁。解放されて創造的に羽ばたく子供たち!
経済産業省「高度デザイン人材育成」など、創造的人材を育成する取り組みが広がっています。
グラグリッドでは、企業での研修に加え、創造的人材の育成を小学校にて実施。
学校や、教育のあり方を大きく変える挑戦を続けています。
課題
総合学習での話し合いのプロセスが固定化。柔軟な発想がおきづらい状態に…
共創と取り組み
小学校と協力し、創造的な人材を育成する小学生むけ授業を新規開発しました。
価値化したこと
生徒自らが、未知のものと柔軟に向き合う文化を醸成。先生も刺激を受け、生徒の創造性・自律性を育む授業に挑戦するように!
課題&実現したいこと
地域、そして日本を担う人材育成を目指して。
新宿区立落合第六小学校(以下落六小)は、総合学習の時間を核に、プロジェクト形式の授業を地域や社会とともに展開してきました。
総合学習の時間では、プロジェクトを推進する力として、文字を多用したファシリテーション・グラフィック が導入されていました。
しかし、生徒たちは「文字をどう書くか?」にとらわれてしまう状態に。
結果、本来の目的である柔軟な発想が起きづらく、固定概念に縛られてしまうという課題を抱えていました。
この状況を見た校長の竹村先生は「生徒たちが、常識にとらわれない柔軟な創造活動を推進していくために、グラフィックレコーディングで用いられている絵の力が必要だ」と痛感。
「生徒に指導できるよう、先生に教えて欲しい」と、グラグリッドに相談の問い合わせをくださいました。
共創と取り組み
生徒たちの変容と社会での活躍が、この取り組みのゴールだ!
竹村先生の相談を伺っていくなかで、
私たちは「生徒の変容と未来の社会での活躍が、この相談のゴールだ!」と捉えました。
活動主体である生徒自らが描き出すことで、その変化を受けて、先生、そして学校や地域も変わっていくと考えたのです。
では、小学生自らが描き出す状況は、どうしたら生み出せるのでしょうか?
生徒自らが描き出す状況を生み出すために、リサーチを実施!
私たちはまず、生徒自ら描き出す状況を生み出すために、二つのリサーチを行いました。
①総合授業での生徒たちの話し合いの様子を観察
②落六小の先生方全員へのヒアリング
①総合授業での生徒たちの話し合いの様子を観察
総合授業での生徒たちの話し合いの様子を観察した結果、依頼時からの指摘である柔軟な発想が起きづらく、固定概念にとらわれる背景には、話し合い自体が型にはまり、固定化してしまっている状況があることを突き止めました。
話し合いが固定化している状況の例
・話し合いのプロセスの中で、発話者が決まっている
・多数決に頼りすぎる
・話し合いよりも個々の作業へ関心が向いてしまう
・発言することが怖い」という、発言すること自体への怖れや諦めの態度
②先生方全員へのヒアリング
また、先生方全員へのヒアリングの結果、先生方も生徒たちの話し合いのプロセスに対する課題を感じており、話し合いの質を上げるための活動に期待を持っていることが分かりました。
同時に、心配の声や、授業への配慮への指摘もいただきました。
・「自分が生徒たちにグラフィックレコーディングを教えることができるのだろうか」
・「本当に生徒たちの話し合いの質が変わるのか」
・「学年による発達状況に応じた授業の配慮が必要である」
こうした声を受けて、私たちは竹村先生らと、「いかに生徒の『未来を進む力』を育むか、そして学校という生態系を変えていくか」をテーマに議論を重ね、授業を設計していきました。
日本初!小学生向けのグラフィックレコーディングを活かした創造的人材育成の授業、スタート
小学生に対して授業を実施するにあたり、「楽しむ」「空想する」「きく」「まとめる」という4ステップから構成された「おえかきシンキング」と名付けたプログラムを作成しました。
【1】楽しむ
身体を目覚めさせ、全身を使って創造していくありかたを学んでいきます。
生徒たちは、一人一本ペンを持ち、ペンの持ち方やコミュニケーション・創造のための描き方を体得していきました。
授業最後には、体育館いっぱいに敷き詰めたロール紙に、1つの「新しい星と、そこに住む新しい生き物」を描き出す挑戦!
一人一人の絵と絵からコミュニケーションが生まれ、無数のストーリーが紡がれ、新しい星が生まれていきました。
【2】空想する
身の回りから未知の世界を考え出す方法を学んでゆきます。
生徒たちは、用意された雑誌やチラシから、気になった要素を切り抜きコラージュし、生き物を形作りました。
生き物ができたら、「生き物の住処探し」へ!
・この生き物の形なら、どんな動きをするんだろう?
・どんなところに住んでいるんだろう?
・どんな特性がある?
形作った生き物を手で持って、教室中を歩き回り、考えていきます。
そうして生き物のいる未知の新しい世界・文化を発想しあい、展覧会にて発表し合いました。
【3】きく
ともに新しい何かを創るために大事な「考えの異なる他者の背景や話を深くきいて、受けとめ合う」態度を学びます。
まずは、自分の心の声を受けとめることから。
生徒たちは、授業前日まで行われていた学校のイベントについて、自分のストーリーを思い出し、心の声をきいて、描きうけとめていきます。
自分の心の声をうけとめたら、「他者の話を深くきく」時間に。
リスニングペンダントというツールを用いて、相手のストーリーを聞くこと、観点を持って聞くことを体験しました。
「どうききとったか」を話者に伝え、普段の聞き方とどう違うのかを考えていきました。
【4】まとめる
さまざまな声を受けとめ、関係性を見出し、存在できる世界を探る方法を学んでゆきます。
まずは「未来の西落合に創りたいもの」を一人一人発想してキーワード化。
ペアの相手のキーワードを絵で視覚化し、相互にすり合わせていきました。
集大成は「未来の西落合のまちを描こう」!
4名の班で「1枚の模造紙に、班全員の創りたいものがイキイキしているまち」を描いていきます。
相対する要素にどう折り合いをつけるか。
興味に応じて分断された街をどのようにまとめるか。
生徒たちは手を動かしながら、街の形を模索し、一つの世界観を描いていきました。
授業、活動を支える仕組みづくり
また、プロジェクト中では、授業を支える仕組みづくりも平行して行いました。
【未来の教育へ活かすための活動】
授業後には、毎回私たちと先生方が振り返りを実施。
各クラスの状況や課題、次への展望をディスカッションし、リアルタイムでグラフィックにしていきました。
こうした振り返りでの学びを未来の教育へ活かすために、日本デザイン学会にて研究発表を行いました。
・小学生のための「おえかきシンキング」授業から見た創造的人材育成への影響要因
(日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会)
【生徒の変容を、保護者・地域・社会へ広げるための、ワークショップフォトグラフ】
生徒たちの変容を、先生や私たちがより鮮明に捉えることを目的に、毎回の授業にて、ワークショップフォトグラフを導入しました。
ワークショップフォトグラフは、生徒達の変容を、取り組みの価値を保護者、地域、社会へ伝えていく大きな力にもなっています。
価値化したこと
柔軟に、未知のものと向き合う文化の醸成
柔軟に未知のものと向き合う文化が5・6年生を中心に醸成されていきました。
【1:「楽しむ」】
生徒たちが正解のない問いに対し、一人一本ペンを持ち、巨大な紙に描くことで、個人の壁や固定概念から解放されていきました。
【2:「空想する」】
生徒たちが身体を使った探索、抽象化を行い、他者と話していくことで、見立てたものから飛躍し、新しい意味を発見していきました。
【3:「きく」】
生徒たちが自分の心の声を聞いて受け止める態度を学び、他者の声を受け止める土台を育んでいきました。
【4:「まとめる」】
生徒たちそれぞれが折り合いをつけるための対話、他者の世界への貢献、自分の世界に他者が交わることへの許容を通じて、新たな世界を創造する中でお互いが共存するあり方を学んでいきました。
生徒たちの変化から生まれた、学校の変化
こうしたプロセスを経て、生徒たちの中に徐々に創造的活動を支える「変化の兆し」が見えるようになりました。
・他者へ話しかけて心を開く
・自分を発揮できる場を見つける
・授業のノート表現が多様になる
・下級生へ促す関わり方が増える
ひとつひとつは小さな兆しです。
しかし、そうした兆しを生徒たちがお互いに気付き、そして先生方も気付いていった結果、生徒が主導して授業を担ったり、道徳の時間で自由に描きながら考えるようになったりと、授業の形がどんどん変わっていきました。
生徒が常識にとらわれず、新しいものを生み出していく柔軟性を持って活動していける土壌が豊かに育っています。
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参考)落六小における総合学習授業の取り組みはグラグリッドのnoteでもご覧いただけます。
クライアントの声
この授業の意味は、「解放」という側面が一番強かったです。
・(こうあるべきという)かたちからの「解放」
・(こうあるべきという)方法からの「解放」
・(こうあるべきという)関係からの「解放」
・(こうあるべきという)人間からの「解放」。
授業で生まれた体験知を、学校中に循環させることで、普段の授業での生徒の学び方の変容を狙っています。
そして、新宿区落合第六小学校は、2019年度、文部科学省から「教育課程特例校」認定を受けました。
認定を受けた授業『みらい科』においては、本校の規定する汎用的スキルの育成とともに、それらを有機的に育成するツールとして、グラフィックレコーディングの手法を全校に取り入れていきます!
この授業を通じて、情報交流を活発にし、地域や保護者を巻き込んだプロジェクト学習と絡めていくことで、将来ばかりでなく現在の生活や学びに生かす探究的な学習を展開していけると確信しています。
新宿区立落合第六小学校 校長
竹村郷氏
グラグリッドメンバーのコメント
とても印象的だったのが、生徒たちが一人一本ペンを持って、描き出した時の圧倒的な解放感でした。「手や体をめいっぱいを動かしながら考えることが、一人一人を目覚めせる。
常識や固定概念にとらわれず、創造してゆく力を、皆が持っている」。そう実感しました。
次のステップは、この授業で学んだ小学生の生徒が、学校や私たちを通じて社会とつながって、大きく社会を描いてゆく力になっていくことです。そうした仕掛け、仕組みづくりに今は挑戦しています。(和田)